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第3話 ロォジェでの邂逅と1980年代の東京

   『香澄の夜

香澄はスキンケアをしながら、最近のニュースで取り上げられているLGBT問題について考えていた。日本では前向きに進んでいるようだが、心は女性で身体は男性の人々と一緒に裸でお風呂に入ることに対して、どうしても抵抗があった。香澄は、自分の気持ちをベッドの中で率直に悠真に話すことを決心した。

「ねえ、最近LGBTの問題が話題になってるけど、私はやっぱり一緒にお風呂に入るのは少し抵抗があるの。身体は男性のままで心は女性って、私にはどうしても受け入れられなくて…」香澄は恥じらいながらも、悠真にその気持ちを打ち明けた。

悠真は優しく髪を撫で、温かい声で答えた。「香澄の言う通りだよ。それぞれの気持ちが大切だから、無理をしなくていいんだよ。」彼の唇は優しく、愛情に溢れていた。その温もりに包まれながら、香澄は悠真が一番だと再確認し、心地よい眠りに落ちていった。

   『1980年代の東京

香澄が目を開けると、1980年代の東京に立っていた。ネオンが煌めく街並み、人々の活気あふれる姿、新しい時代の風を感じる街の雰囲気に驚かされた。高度成長期を迎えた日本は、経済的な繁栄と共にフランス料理が大流行していた。上流階級の人々は、フランス料理店での食事を通じて社交や接待を行うことが常であり、その文化が都市全体に広がっていた。

街の大きなビルボードには、ソニーのウォークマンやセイコーの腕時計の広告が輝き、繁栄と消費文化の象徴となっていた。さらに、サントリーのウイスキーやトヨタの新型車の広告も目に付き、1980年代の東京の賑やかさと活気が感じられた。香澄はその時代の繁栄を肌で感じながら、街の中心へと向かって歩き出した。

   『レストラン〝ロォジェ〟

その日、香澄は東京の名門フレンチレストラン「ロォジェ」に向かった。1980年代、フランス料理は高度成長期の日本において一種のステータスシンボルとして広がり、贅沢な美食文化が花開いていた。特にロォジェは、資生堂の支援を受けており、そのブランド力と高品質なサービスが評判を呼んでいた。

エレガントな内装と静かな雰囲気に包まれた空間が広がっている。香澄は案内されるままに、窓際の席に着いた。

「Bonjour、香澄様。ようこそロォジェへ。」ウェイターが笑顔で迎え入れ、メニューを手渡した。

   『前菜と白ワイン

メニューを見ながら、前菜に「キャビアとブリニ」を選んだ。キャビアの塩味とブリニのふんわりとした食感が、期待を裏切らないものであった。

「こちらにはシャブリのプルミエ・クリュ、1970年代産がよく合います。」ウェイターはワインリストを見せながら勧めた。

グラスに注がれたシャブリを手に取ると、柑橘系の爽やかな香りとミネラル感が広がり、鼻腔をくすぐる。口に含むと、フルーティーでありながら骨格のある風味がキャビアのリッチな味わいと絶妙にマッチし、口の中で一つの芸術作品となる。

「この組み合わせは本当に素晴らしいわ。」その完璧なマリアージュに驚きと喜びを感じた。

   『メインディッシュと赤ワイン

次に運ばれてきたのは「鴨のロースト」。鴨の皮はカリカリに焼かれ、中はジューシーで柔らかい。

「こちらにはブルゴーニュ地方の赤ワイン、1960年代産のシャンボール・ミュジニーがよく合います。」ウェイターは再びワインを勧めた。

シャンボール・ミュジニーを注文し、グラスに注がれたワインを手に取る。深いルビー色のワインからは、赤い果実とスパイスの香りが漂い、鼻腔を満たす。鴨のローストを一口食べ、その後にワインを口に含むと、鴨のリッチな風味とワインのしっかりとしたタンニンと酸味が絶妙に調和し、口の中に新たなハーモニーが生まれた。

「このマリアージュも別格ね。」その美味しさに感動し、料理とワインの完璧な組み合わせに感謝した。

   『一流のレストランのサービス

ロォジェのサービスは超一流だった。ウェイターたちは、香澄が何を求めているのかを瞬時に察知し、リラックスして食事を楽しめるように細やかな気配りをしてくれた。料理のタイミング、ワインの注ぎ方、食器の扱い、すべてが洗練されており、まるで王侯貴族のような気分を味わった。

   『1980年代の東京の風

食事を終えた香澄は、1980年代の東京の街を散策しながら、その時代の空気を肌で感じていた。ネオンが煌めく街並み、人々の活気あふれる姿、新しい時代の風を感じる街の雰囲気に魅了された。

「1980年代の東京って、本当に素敵な場所ね。」そうつぶやきながら、街の夜景を楽しんだ。

しかし、心の奥には一抹の寂しさが漂っていた。1980年代の繁栄と輝きが、なぜ2020年代には失われてしまったのか。国民が汗水流して働いた苦労が実感して報われる政治家の方はどこかにいないものかしらと呟きながら、政府の税金の使い道や政策の問題が、その成長を阻んだのではないかという思いが頭をよぎった。

「高度成長期の輝きが、なぜ消えてしまったのかしら…」彼女は街の灯りを見つめながら、深い憂いを感じた。

再び現代に戻り、悠真の温もりを感じながら深い眠りに落ちた。心には、新たな冒険への期待と、悠真への深い愛情が満ち溢れていた。

   『目覚めの朝

香澄は朝の光を浴びて目を覚ましたが、悠真の姿は横に無かった。彼は早朝からチリの首都サンティアゴへ出張に出かけたのだということを思い出した。サンティアゴは最近、急速な経済発展を遂げている都市で、チリ全体の経済成長を牽引している。

香澄はベッドからゆっくりと起き上がり、窓の外を眺めた。子供の頃感じていた世界のパワーバランスが全く変わってしまったなぁ、としみじみと感じる。今日もどこかで誰かが何かに情熱を傾けて、時代が少しずつ動くんだろうなぁ。そう思いながら、「さっ、私も衣替えに情熱を注がなくっちゃ」と可愛くつぶやきながらベッドで大袈裟にのびをした。fin